しーくれっとハムのひとりごと

ROM専が時折もらす独り言です。

すてい・ほーむ

吉原理恵子著「間の楔」は発表から30年以上を経ても、尚も読者を魅了する名作。

※年号にすると 昭和→平成→令和に至り、改めて感じる凄み。

昨年2023年にコロナ禍の自粛ムードがようやく終わりました。私の禍中は職場と自宅の往復もしくはステイ・ホームの日々でした。

県外移動が敬遠される中、私の気晴らしは地元の大型スーパー等へ行くことでした。しかし見慣れた景色では何だか物足りません。

ここでフト「間の楔」のCP、イアソンとリキの苦悩が浮かびました。リキのペット生活はタナグラ(エオス)で年から年中ステイ・ホーム(笑)です。ミダスでは職場(ブラックマーケット)と自宅(アパティア)の往復のみ。無論、イアソンはリキの鬱屈に気づいてはいます。しかし二人の関係は主とペット、あくまで捕らえし者と囚われし者です。ただイアソンはリキをエオスから出す際には相当な無理をしました。後にリキはカッツェにそれを指摘され、思いがけず動揺します。

OVA旧版ではその余韻を引き摺りながらアパティアでの濃厚なRシーンへと流れていきます。

(^p^)(^p^)(^p^)(^p^)

このリキがエオスを出る経緯は単行本版では、あくまでイアソン個人の一存であるかのように書かれています。

"「同じ飼い殺しなら、エオスで窒息するよりはマーケットの檻の中で泳ぎたい。くいつきそうな目で、そう言うのだ。(中略)まあ、それくらいのわがままなら、聞いてやってもよかろうと思ってな」"

吉原理恵子著「間の楔」(光風社出版)P243 より抜粋

これに対し後に加筆修正された文庫本版では、エオスで起きたある大事件が発端です。これについて作者はあとがきで

”とにかく、リキがなぜエオスを出されてアパティアに移ることになったのか、そこらへんの経緯をきっちり書いておきたかったのが本音です。そのきっかけとなったのが、ドラマCD②と③で小説版にはなかったリキのペット時代の三年間をオリジナルでみっちり濃く(中略)やっちゃったからなんですが。”

吉原理恵子著「間の楔5」(Chara文庫・徳間書店)  232Pより抜粋

と内容盛り沢山なドラマCDの台本を手掛けたことを挙げています。

ただ私的には単行本版が良かったです。イアソンがリキに抱く愛情がストレート&ダイレクトに伝わるからです。明確な理由付けがされた文庫本版は、それが薄れたように感じました。作者が文庫本のあとがきで述べる通りに、リキがファニチャーの出自を知ることで生まれた彼らとの軋轢が大事件の引き金となる流れはむしろ自然なのですが。ただし大事件を丸く収めるイアソンの手腕と、皆を丸め込む弁舌は素直に拍手喝采です。大事件さえも”渡りに船”とばかりに自身の思惑に利用してしまいます。

ウマイウマイ ""ハ(^▽^*) パチパチ♪

こうして完全ステイ・ホーム(笑)から解放されたリキは、ミダスのアパティアで不要不急の外出(笑)は許されないものの僅かな自由(めいたもの)を手にします。しかし、かつてブラックマーケットの運び屋として、短期間ですが惑星間を行き来していたリキにはやはり物足りません。しかし「間の楔」本編では流石のイアソンもこれ以上はどうすることもできません。いつも同じ決まりきった場所にしかいられない二人。もしかすると二人が感じる閉塞感に読者も共感したからこそ・・・。

今回はここまでにしておきます。

 

<あとがき>

冒頭からして無理矢理感があります(笑)。しかも私が当初予定していた本筋は全く述べられていません。書き出しの部分が思いがけず膨らみ、上記内容となりました。その為にタイトルも変更して「すてい・ほーむ」となった次第です。なので次回こそ当初予定のタイトル通りの内容となります(多分)。

因みに今回の記事内容は「間の楔」単行本版&文庫本版の比較、当ブログ記事では「てぶくろはどこ」と同系統です。

secretham.hatenablog.com

ここでも書きながら感じたのが連載と書下ろしの違いです。

※「間の楔」単行本版は雑誌「小説June」に六回シリーズで連載されたものを書籍化したものです。

文字数やページ数、掲載回数等の制限がある連載と書下ろしでは自由度が全く違うと思われます。作者自身が文庫本版のあとがきでかなり自由に書いた(書けた)旨を語っています。余談ながら作者は「間の楔」の後に、同じく初期の傑作「影の館」シリーズを同じChara文庫(徳間書店)で加筆修正版を書いています。あとがきによると

”ひたすらガツガツ書いていたら、三百ページを超えてしましました。(中略)担当さん、曰く。「大丈夫です。『間の楔』で慣れてます」・・・・・・ですか。”

吉原理恵子著「影の館」(Chara文庫・徳間書店) より抜粋

これも商業BL黎明期にデビューした作者と、商業BL発展後には既にベテラン作家の作者(及び業界)の違いでしょうか。

注)全て私の個人的見解です。